故郷よりの手紙

日記、感想、メモ、愚痴を書いています。

武器としてのマチェーテ-刃物の脅威-

中南米やアフリカで起きる凶行には、銃火器やガソリンだけでなくマチェーテが使われる。この凶悪な形状の大型の刃物は、人間を殺傷するためでなく、熱帯林の藪払いや農業に用いるために生み出されたものであるが、当該地域では普及しているものだから、文字通りの"肉切り包丁"にも使われるのだ。

マチェーテによる刃傷沙汰で最も有名なものはルワンダの大虐殺だろう。80万もの人々が虐殺されたこのジェノサイドでは、銃火器も使われたがマチェーテも使われた。虐殺の生存者は四肢が欠損している者が少なくなく、そうでなくとも引きつりのような傷跡が20年以上経ってなお残る。

中南米ではご存知のとおり、貧困と麻薬による社会情勢から、ギャングやカルテルが暴力で地域を席巻している。ギャング団はもちろんのこと、最も悪名高いロス・セタスに代表されるカルテルは、ギャングとは一線を画した火力を有するが、報道される事件からも分かるとおり、ナタや斧、ナイフなどを使った凄惨な殺人を実行し続けている。

近世までにおいては、銃火器が普及するまでは、武器といえば鉄製の刃物や弓矢であって、鎧や防具などはそれらに応じて進歩を続けていた。初速が全く異なる矢に対しては鎧や盾は有効であったし、刃物ももちろん通らなかっただろう。生身の人体に対してはオーバーキルな大型の剣は、人間が脆弱な皮膚を守るために纏った金属製の鎧にも打撃を与えうるものだった。

これら隆盛を極めた刃物は、こと日本においては台所に食材を切るために置かれるか、よくて護身用に持つ物もいるかもしれない。刃物の脅威は影を潜め、武器としての剣や刀に比べると、民生用の刃物は取るに足らないものに思える。しかしながらマチェーテなどの大型の刃物は、人体を容易に切断するのだ。刃物に対して人の皮膚はあまりに柔く意味をなさず、骨や関節は細い部分に当たれば冗談のように切れてしまう。指や手首などはその際たるもので、斬り付けられれば吹っ飛んでしまうと考えて良い。マチェーテは軍隊にも導入されていて、現在の刃物の中では最も殺傷力の強い部類に入るが、言ってしまえばあの程度の刃厚と重みと切れ味で、人体など容易に切り込めてしまうのだ。鉄製の強靭な外骨格を捨てた人間は、刃物に対してあまりに無力である。